1on1ミーティングでも活用できる「コーチング視点での傾聴のポイント」
1on1では、傾聴が大切と言われます。しかし、傾聴といわれてもどのようにすればよいのか分からず、苦戦している人も多いのではないでしょうか。
今回は、チームアップ株式会社代表取締役の中川が、Voicyの「わおんDX 気ままにインタビュー」チャンネルで「コーチング的インタビュアー」として活躍されている株式会社ジールの栗原和音様と傾聴をテーマに対談しました。(ファシリテーター:チームアップ 小川)
※この対談はVoicy「わおんDX 気ままにインタビュー」チャンネルで聴くことができます。
https://voicy.jp/channel/1097/all
傾聴で大切なのは、相手の話をそのまま受け止めること
━━まずは、傾聴とは何かということから伺っていきたいと思います。そもそも、普段の会話で「話を聞くこと」と、コーチングで「傾聴すること」にはどのような違いがあるのでしょうか。
栗原:普段、相手の話を聞いている時に、頭の中で自分の過去のことを思い出したり、自分だったらどうするかを考えたりすることがあると思います。相手の話を聞いているようで、実は自分の側に意識が向いている。これが、普段の会話で話を聞いている状態です。
一方で、コーチングの時間は、100%相手のための時間と捉えています。話をただ耳で「聞く」のではなく、相手の話に意識を集中させ、評価・判断を加えずに「聴く」。これが、コーチングの傾聴です。私は自分を「無」にして聴くようにしています。
━━「無」にするというのは、ご自分の意見を言わないということでしょうか。
栗原:自分の意見を言わないだけでなく、共感すらしないようにしています。なぜかというと、何かに共感するということは、何かを否定することになってしまうからです。例えば、「朝ご飯は食べる方がいいですよね」と言われて「そうですね」と共感すれば、朝ご飯を食べることを肯定し、食べないことを否定していることになりますよね。すると、相手が次に何かを話す時に「こう言ったら肯定されるかな」「これは否定されるかな」と考えてしまい、話したいことを安心して話せなくなる可能性があるのです。
━━バイアスをかけずに、フラットに話を聴くように心がけるということですね。
中川:バイアスをかけずに聴くという点は1on1でも同じですね。私も、部下の話が自分の価値観と違ったとしても「なるほど、この人はこう考えるのか」とそのまま受け止めるようにしています。
栗原:1on1は、上司と部下がお互いを知る機会という側面がありますよね。ですので、お互いに意見を言い合うけれども、どちらが正しいか間違っているかをジャッジせずに、お互いの価値観を理解し合う時間と捉えるといいのかなと思います。
中川:そうですね。1on1は部下が主役で、部下のための時間なのですが、場作りは上司と部下の協働です。上司が「正解、不正解はない」という前提で場作りをすれば、心理的安全性が保たれるため部下が本音で話せるようになりますね。
━━他にも、話を聴くうえで気をつけたいポイントはありますか。
栗原:相手が考えている時には、黙って待つようにしています。沈黙に耐えられず話しかけたくなるかもしれませんが、そうすると思考を遮ることになってしまうためです。それに、考えている側からすると、聞き手が思っているほど沈黙の時間は気になりません。
中川:例えば、上司から「3年後のキャリアイメージは?」と聞かれたら、3年後の自分をイメージして考える時間が必要ですよね。答えはすぐに出てくるものと上司が思っているとしたら、もしかしたらその上司は無意識に「こう答えてほしい」と考えてしまっているのかもしれません。1on1はテストで正解を答えるための時間ではなく、真っ白な画用紙に絵を描く時間であるという認識を持つことが大切ですね。
コーチングの手法を用いて部下の内省を促す
━━内省を促すというのは簡単なようでいて難しいことでもあると思うのですが、待つ以外にも何かよい方法はありますか。
栗原:コーチングには、抽象的な話を数値化するという手法があります。例えば、「仕事が忙しすぎる」という話になったら「会社をやめたくなるほど忙しい状態を10とすると、今はどれくらい?」「理想は?」といった質問をします。それに対して「今は6」「理想は3」と相手が答えたら、「では6を3に下げるためには何ができるだろう」と考えていくのです。
━━数値化されることで具体的にイメージしやすくなりますね。
栗原:他には、比喩を使うという方法もあります。私も以前、仕事で余裕がないときに上司から「栗原さんは今すごく広い海の渦の中にいる気持ちかもしれないけれど、実は洗濯機の中くらいかもしれないよ」と言われたことがあるのですが、それによって状況を俯瞰して見られるようになり、受け止め方が大きく変わったという経験をしました。
中川:視点や捉え方を変えるというのは、大事なポイントですね。
栗原:比喩を使って新しい捉え方ができたら、対話の最後に「そのために明日からできることって何があると思う?」と聞くようにしています。そうすることで抽象的なイメージの話で終わらずに、その場で最初の一歩を決めて具体的な行動につなげることができます。
大切なのは、部下の内発的動機づけを支援すること
━━本来1on1は部下が話したいことを話す時間なのですが、上司ばかりが話してしまってうまくいかないことがあります。
栗原:まず、上司が何かを話したいと思ったら、「私にもアイデアがわいてきたんだけれど、話してもいい?」と許可をとるといいですね。突然話し始めると「自分が話したいのに上司が自分の話ばかりしてくる」と思われてしまいますが、ひとこと断りを入れれば相手の受け止め方が変わります。
上司がたくさん話してしまう理由は様々だと思いますが、その一つは部下を信じることができず、部下は知識や経験が少ないからアドバイスをしなければと思っているためかもしれません。でも、実は部下にアドバイスをしてもなかなか行動してもらえないことが多いですよね。結局は上司がアドバイスをするよりも、時間をかけてでも部下自身の中から言葉を引き出し、部下を信じて内発的動機づけを支援する方が実際の行動につながりやすいのです。
中川:その通りですね。1回1回の対話を点として捉えるのではなく線でつないで、1回で達成しようとするのではなく、対話を重ねることで少しずつゴールに近づくという考えを持つことが重要ですね。
━━時間をかけて1つ1つ積み重ねてはじめて、上司が本当に伝えたかったことを部下が体現してくれる状態になるということですね。では最後にもうひとつお伺いしたいのですが、相性が悪い相手との向き合い方についての考えをお聞かせください。
中川:相性が悪いというのは実は思い込みで、相手のことを分かっていないだけという可能性もありますよね。そこで私は、お互いを理解するためにまず上司から部下に自己開示することを勧めています。自分がなぜこの会社に入ったのか、どのような失敗をしてきたかといったことを部下に話すのです。実際にこれまで、上司の言動の背景を知って理解が進み、関係が改善したという例をいくつも見てきました。
栗原:私は、「この人は苦手」のように、何かしら人をジャッジしてしまったときに、そのジャッジは“貼って剥がせるシール”のようなものだというイメージを持つようにしています。「この人は苦手」というシールを貼ってしまっても、次に話す時には一度そのシールを剥がしてまっさらな気持ちで向き合います。その結果、また同じようにシールを貼るかもしれませんが、それでもまた剥がします。それを繰り返しているうちに、見落としていた一面に気づくことや、実はそうでもなかったと見え方が変わることが起こるかもしれません。
中川:苦手というシールは強いので、貼りっぱなしにしていると「話しても分かり合えないな」と思い込んで諦めてしまいますよね。
栗原:そうなると、その相手と話すたびに「ほらやっぱりここが苦手」と苦手な情報ばかりを集めるようになり、相手を理解することを妨げてしまいます。実は、相性が悪い相手がいるということはチャンスともいえますよね。「自分は今この人に苦手というシールを貼っている。具体的にどのようなシールを貼っているんだろうか。それは本当だろうか。」と立ち止まって観察することで、自分の幅を広げる機会になるはずです。
中川:1on1でも、部下と向き合って対話をすることが上司の成長機会にもなっています。1on1の本来の目的は部下の成長促進ですが、上司が人の話を受け止められるようになるという副次的な効果もありますね。1on1によって部下が成長するだけでなく、上司も成長することで働く環境がよりよくなっていくと嬉しいです。