苦しい時ほどコストカットよりも組織づくり。“ガッホー文化”が生み出す多角的なリーダーシップ
企業として苦しいタイミングで、コストカットではなく組織づくりに注力した結果、6年連続で「働きがいのある会社」ベストカンパニーに選出されるまでになったヤッホーブルーイング様。ミッションから逆算された独自の組織文化である「ガッホー文化」を構築することで、社員が楽しみながら能動的に働ける環境を整えています。そのユニークな取り組みについて、チームアップ株式会社代表の中川が、同社で組織開発、人材開発、採用を担当する六文(高畑)様、広報担当のなっこ(三浦)様、やさい(塚田)様にお話を伺いました。
業績向上のために取り組んだ「フラットな組織づくり」
━━ 貴社では2009年から本格的に組織開発に取り組んでいらっしゃると聞きました。そもそもどのようなきっかけで始められたのでしょうか。
六文:当社は、1997年の創業以来、地ビールブームの波に乗って急成長していました。しかし、ブームが去り業界が低迷していったことで業績が悪化。社員が次々に辞めて社内の雰囲気も悪くなっていきました。そんな会社の雰囲気を変えるために「てんちょ」(ヤッホーブルーイング社長のニックネーム)が楽天大学のチームビルディングプログラムに参加したことが転機となって、本格的な組織づくりを始めました。
━━ 一般的に、事業が行き詰まると人材コストのカットなどに着手する企業が多いと思うのですが、貴社の場合は逆ですよね。なぜそのようなタイミングで組織づくりに注力しようと思われたのでしょうか。
六文:当時は、社員が一丸となって事業を進めるという雰囲気ではありませんでした。そこで、まずはみんなが一体になれる組織づくりをしようと考え、チームビルディングプログラムで習ったことを愚直に遂行していきました。その中で育まれたのが、ガッホー文化です。
ガッホーとは、「頑張れヤッホー」を縮めたもの。その考え方のベースになっているのは、フラットな組織という概念です。フラットな組織とは、階層のない組織ということではなく、言いたいことを言いたい人に直接言えるような環境のこと。いわゆる心理的安全性の高い組織文化ですね。言いたいことが言えるということは、相手とそのような関係ができているということです。そのためには日頃からのコミュニケーションが大切なので、まずはコミュニケーションの量を増やすための施策に取り組みました。その施策の一つが、ニックネーム制度です。
━━ 先ほど、六文様が社長のことを「てんちょ」とニックネームで呼んでいらっしゃるのを聞いて、衝撃を受けました。ニックネームで呼び合うということが徹底されているのですね。
六文:徹底しているというよりは、当たり前の文化になっているという方が正しい表現かもしれません。入社後はもちろん、入社前の採用面接の時にニックネームを決めてもらうほど浸透し、社内に馴染んでいます。
━━ まさに文化になっているということですね。
六文:そうですね。こうした施策によってお互いに言いたいことが言えるようになると、健全な議論が生まれます。十分に議論するとお互いに結論に対して納得できるため、実行力が高まりますよね。良い意見というのは必ずしもマネージャーだけが持っているわけではありませんので、全員の意見を十分に引き出すことで打ち手の質が良くなり、大きな成果をもたらすのです。
━━ ニックネーム制度の話だけを聞くと「フレンドリーな組織」のようなことで済まされてしまう可能性がありますが、そこまで戦略的に設計されているのですね。
六文:仕事には納期や時間制限がありますので、ずっと議論ばかりをしているわけにもいかず、リーダーが決定するということももちろんあります。しかし、ガッホー文化には「自ら考えて行動する」というのが根底にあり、チームのメンバーひとりひとりが、自分の意見を持ち決定に責任をもつことが原則。意思決定のボールは全てのプレイヤーが持っているというのが大前提なのです。
━━ 実際に働いていらっしゃるやさい様、なっこ様は、会社の文化についてどのように感じていらっしゃいますか。
やさい:私はまだ入社して3年目ですが、既に重要な仕事を任せてもらっています。責任がついてくるので大変ではありますが、先輩との距離が近く、自分の意見を言いやすいのでやりやすいですね。
なっこ:私も今年入社したばかりです。当社の文化は採用セミナーの時に伝えられるのですが、そこで「自ら考えて行動してほしい」と言われたことが志望動機になりました。実際に入社してみると、本当に1人1人に決断と行動力が求められる会社で、採用セミナーの時に言われた通りでした。
━━ 採用セミナーの時から徹底していて、入社前と入社後のギャップがないというのはすばらしいですね。ちなみに、貴社では採用面接の際にどのようなことを重視なさっているのでしょうか。
六文:当社の文化や理念にフィットするかどうかですね。例えば、当社には毎朝30分間雑談をする「雑談朝礼」があり、毎日10人くらいとプライベートな話をするので、そうしたコミュニケーション施策に前向きに取り組んでいただけるかの確認などをします。どうしてもお互いのプライベートが筒抜けになってしまうので、合わない方には辛いと思うからです。
━━ 振り切っていて素晴らしいですね。入社後の研修ではどのようなことをなさっているのでしょうか。
六文:まず、入社後に1ヶ月間研修をします。これは、理念の理解、文化の話、チームの作り方のセオリーなどを伝えるものです。その後はヤッホー流の働き方を体感してもらうことも目的とした「新人プロジェクト」という研修が用意されており、新入社員同士でプロジェクトを組んで「ヤッホーらしさとは」などを話し合いながら進めていきます。合計で3ヶ月程度の研修期間で、講義形式とプロジェクトを並行してガッホー文化を理解してもらうようになっています。
組織開発で重要なのは、信じて続けること
━━ 組織活性も事業も順調に推進されていますが、今後はどのようなポイントを伸ばしていきたいとお考えですか。
六文:ファシリテーター型のリーダーシップを発揮できるスタッフを増やすことです。強いリーダー、指示型のリーダー像ではなく、フラットな組織においてチームメンバーの強みを最大限に引き出すためのファシリテーションができるようなリーダーシップの養成を目指しています。
━━ どこまでもフラットな組織を目指しているのですね。
六文:そうですね。当社は一般的な会社と比較すると階層が細分化されていませんが、いわゆる管理職としてのリーダーがいて、フォロワーとしてスタッフがいるという構造にはなっています。これをよりフラットにして、いわゆるシェアード型の、みんながお互いにリーダーシップを発揮しながら動かせる企業にしていきたいと思っています。現時点では、そうしたチーム形成が部分的にはできているのですが、まだ伸びしろが大きいと考えています。ゆくゆくは、全社どのメンバーで構成されるチームでも展開できるようにしていきたいと思っています。
━━ 貴社のようなフラットな組織を目指す企業は多いと思いますが、一朝一夕でできることではないと思います。そのような組織文化構築を目指す企業の皆様にアドバイスをいただけますか。
六文:継続が大切です。組織開発は、成果が目に見えてわかるものではありません。だからこそ、諦めずに続けることが重要だと思います。とはいえ、効果を見えるようにしていくことももちろん必要ですよね。当社では、GPTWの「働きがいのある会社」ランキングにエントリーしており、その評価も上がってきているので、そういったこともやりがいにつながっていると思います。
またもう一つ、「なんでそんな無駄なことをやっているんだ」と言われない環境であることも重要ですね。当社の場合は施策について経営層がコミットしているので、その点ではやりやすい環境だと思います。