特集
人の可能性を引き出す組織のレシピ

徹底したフォロー体制で早期離職を防止。組織を挙げて取り組む「人財が定着する職場づくり」

「人生100年時代を素適に生きる」をスローガンに、介護サービス事業、リゾートホテル事業、医療関連事業、フード事業などを運営しているロングライフホールディング株式会社。介護業界で初めて上場や海外進出を果たしたロングライフグループは、『介護』という従来の概念にとらわれず、新しいサービスを次々と生み出しています。介護を究極のサービス業と捉え、「老いることは耐えることではなく“楽しむ”こと」“入居後はさらに元気になる老人ホーム”をつくってきた、業界のリーディングカンパニーです。

人材の定着が難しいといわれる業界にありながらも従業員満足度の高い職場づくりに成功し、2021年にはホワイト企業アワード「人材育成部門」を受賞。社員一人ひとりを「会社の財」として大切にし、働きやすい環境の整備に努めています。

今回は、ロングライフホールディンク株式会社 人財グループグループ長の櫻井様に、同社の人財育成の取り組みについての話を伺いました。

3Kのイメージを払拭するホワイト企業認定

━━まずは、ホワイト企業認定についての話を伺いたいと思います。ホワイト企業認定にあたって、貴社のどのような点が評価されたとお考えですか。

私たちの業界は、採用や人財の定着が難しいと言われています。介護というと「3Kの仕事」というイメージを持つ方が多いですよね。ですので私たちは、働き方や人財育成などにおいて、そのイメージを払拭するような取り組みを続けてきました。残業を減らし、休暇の取得促進を行ったり、働きがいのある職場づくりをしたりしてきた点が評価されたのだと思います。また、当グループ社員の約8割が女性であることからダイバーシティ&インクルージョン委員会を設立し、女性活躍推進チームでミーティングを重ね、出産や育児、介護などのライフイベントの変化があっても、⼥性がキャリアアップをあきらめることなく、最⼤限の⼒を発揮し活躍できる環境づくりを目指してきた点も評価されたのだと思います。女性管理職の割合も5割と高く、管理職を目指したい女性を育成していくことにも力を入れています。

━━残業時間の削減にも力を入れていらっしゃるということですが、具体的にどのようなことをなさっているのでしょうか。

残業時間の削減は、会社を挙げて取り組んでいることの一つです。

まず、残業は上司の指示があった場合に行うというのが前提になっていて、上司に申請して許可が出た場合にのみできるというルールが徹底されています。残業時は「残業中」と書かれた大きなバッヂを付けて残業しています。以前は黄色い帽子だったんですよ。上司から残業命令が出ないまま無断残業をしてはいけないことは社内のイントラネットの掲示板や毎日配信されるDaily News等で啓蒙しています。

会社としては、管理職研修や入社時研修などを通して時間管理などの研修を行って残業を減らすほか、毎月のコンプライアンス委員会で残業が月に30時間を超えている人をリストアップし、残業の理由と次月の対策をグループ会社の社長が報告しています。

━━残業の原因を見つけるところまで組織で行っていらっしゃるのですね。

原因を調べ、解消するところまでです。たとえば人が足りないのが原因だということがわかれば、いつどのようにして人を増やすかまで決めて伝えるようにしています。今の状態がいつ解消されるかがわからないと先が見えず不安になりますが、わかっていれば「それまで頑張ろう」と思ってもらえますので。

広い視野で採用施策を企画し、よい人財の採用に成功

━━採用においても、ユニークな施策を打って積極的に取り組んでいらっしゃると伺っています。具体的にどのようなことをなさっているのでしょうか。

当社のことを知ってもらうために、色々な方法で発信しています。特に最近積極的に行っているのは、介護職としての顔を持つYouTuberに在宅介護事業の「エルケア」の仕事を体験してもらうなど、若い世代への訴求効果が高いアピール方法を積極的に取り入れています。ロングライフグループでは陸上部があることから働きながら競技を続けることができるアスリート人財や競技を引退された方のセカンドキャリアとしてロングライフグループを選択していただけるような提案を行っています。

━━グローバル人財の採用・育成にも成功していると伺いました。

当社は、ダイバーシティ&インクルージョン、つまり、性別や年齢、国籍、障がいの有無などにこだわらず、多様な人財がそれぞれの強みを発揮できる職場づくりを進めています。海外人財の採用も、その一環として行われているものです。現場では優秀な海外スタッフがたくさん活躍していて、たとえば2020年にミャンマーから技能実習生として迎えた5名は、素晴らしいサービスを提供するスタッフを讃える当社の表彰制度「ベストオブ ・ ロングライフ」を受賞しています。

このような優秀なスタッフを採用し、長く安心して働いてもらえるように、現地に赴いて面接や研修をしたり、ビデオレターを作成してご家族に視聴していただいたり、グループ会社で働くグローバル人財の方とランチ兼座談会を行うなどフォローにも取り組んでいます。

組織全体で取り組む早期離職防止施策

━━スタッフが「ここで働き続けたい」と思えるような環境作りに注力されているのですね。

そうですね。特に現在は、入社後3ヶ月以内の早期離職を防ぐことに努めています。中途採用者には、「トリプルフォロー制度」でしっかりサポートできる体制を作りました。

━━トリプルフォローとはどのような制度なのでしょうか。

新入社員1名に対してチューター、コーチ、メンターの3名がつき、多方面からしっかりサポートする制度です。3名は、次のような役割分担で新入社員を支援しています。

チューター:職場で指導したり、相談に乗ったりする。現場の研修、OJT、育成記録をみてフィードバックをする。
コーチ:グループ会社の部長クラスが担当。入社時研修最終日の面談やチューターとの情報交換を行い、早期から活躍できる人財育成を目指す。
メンター:ホールディングのメンバー。入社時研修から3ヶ月までフォローする。上司に言いにくい相談に乗ってサポートする。「今月のレビューシート」で現在の心境やモチベーションを把握し、必要に応じて面談を行う。

また、新入社員への教え方、褒め方、モチベーションを向上させる方法などの研修を直属の上司にも受けてもらい、新入社員に寄り添って組織全体でサポートできるような環境を整えています。

━━特に早期離職防止に取り組んでいるのはなぜなのでしょうか。

早期離職は、採用コスト・教育コストの損失や、企業のイメージダウンにもつながります。また、せっかく当社を選んで入社した社員が、会社のよさや仕事の楽しさを知る前にやめてしまうのは本人にとってもマイナスなので、それを防ぎたいというのが狙いです。新入社員は3ヶ月くらいで仕事に慣れますので、それまでの間はしっかりサポートしてあげることが大切だと考えています。

社員手帳で企業理念や指針を共有

━━新入社員に企業理念を浸透させるのは難しいと言われますが、貴社ではどのようになさってますか。

企業理念を理解してもらうために、入社時に時間をかけて研修などを行っています。また、企業理念や指針などは全社員に配布している社員手帳に書かれていますので、手帳を毎日の朝礼で唱和して理解を深めるようにしています。

━━社員手帳にはどのようなことが書かれているのでしょうか。

社員手帳は半年ごとに更新し、全社員(約2,500名)に配布しています。手帳には自分自身のテンションが上がる、お気に入りのブックカバーを付けることを義務付けています。会社方針や経営の基本理念、当グループがサービスの基本としている 「グッドフィーリング (顧客満足)」 や「心地よい空間」とは何かといった説明、各社の戦略的フォーカス(今期のテーマや売上目標)、組織図や電話番号、福利厚生などの基本的な情報から、会社についてのあらゆることが書かれています。研修も、社員手帳に書かれていることを掘り下げて作ることが多いですね。

━━掘り下げるというのは、具体的にどのようなことなのでしょうか。

たとえば、当グループには「お客様の歴史や文化、歩んでこられた人生の背景を尊重する」というサービスの基本方針があります。それを掘り下げて、若手メンバーでの研修で「お客様の文化と背景研究会」を開催し、70代、80代、90代の方々に好まれる料理、当時流行ったもの、当時の有名人などをグループで調べ、プレゼンテーションを行いました。

━━なるほど。全てのベースが社員手帳にあるのですね。

そうですね。社員は全員ここに載っている内容を軸に仕事をしていて、何かに悩んだ時には手帳を見て行動を決めています。

━━社員に会社のことを知ってもらうために、他にはどのようなことをなさっているのでしょうか。

会社の最新の取り組みを知ることができる季刊誌「LONG LIFE TIMES」や共に働く仲間を紹介し、職業理解を深めるLONGLIFE通信(社内報)を全社員に配布しています。デジタル時代ではありますが、社員のご家族にも読んでいただくことができる点や自分自身が紹介されているものがカタチに残る点に意義を感じています。

━━ありがとうございました。では最後に、人財定着や採用、組織運営に苦戦されている企業の皆様にぜひ何かアドバイスをいただけたら幸いです。

人財の定着や育成には、組織全体の連携が重要です。当社の場合は、採用はホールディングで行い、入社後は現場と連携しながらトリプルフォローでサポートするという体制を作ることで、早期離職の原因を把握しやすくなりました。また、優秀な社員が辞めてしまわないように管理職の研修にも力を入れるなど、多方面から社員をバックアップしていくことが、人財の定着につながります。できることはどんどん進めるということが、組織運営では大切なのではないでしょうか。