特集
人の可能性を引き出す組織のレシピ

将来を担う人材の輩出に向けて。ミクシィの新たな若手社員育成施策とは

積極的な人材育成や、多様な働き方を実現する企業としても有名なミクシィ様。将来を担う人材を増やすべく、2021年から新卒社員の成長をサポートするための取り組みをスタートさせています。この新しい施策は、1人1人の可能性を引き出し、伸ばしていくことを目的として始められたもの。現場で抵抗なく積極的に取り入れてもらえるように、細部まで練られているのが特長です。その取り組みについて、チームアップ株式会社代表の中川が、同社で組織開発、人材育成を担当する酒井様、遠藤様に伺いました。

新卒社員が目標に向けて自走できる仕組みづくり

━━ まずは貴社が若手社員の育成に力を入れるようになった背景を教えてください。

酒井:将来的に会社や事業をけん引できる人材を、新卒社員から輩出したいと考えています。そのためには、できるだけ早くから新卒社員が「バッターボックス」に立ち、経験を積んで力をつけてもらうことが必要です。

また、それと同じくらいリーダーシップや当事者意識など、ベースとなる能力の開発・引き上げが重要だと考えています。

バッターボックスに立った際に、これまでより難易度の高い課題や異なる環境での挑戦が求められる場合、これらの能力が支えになるはずです。

そのため、まずは社員の能力開発・引き上げを行う施策をメインに取り組むことにしました。

人事本部 人事戦略部 人材育成グループ 酒井 亜沙美様

━━ 会社の規模がより大きくなったからこそ抱える課題の一つですね。施策の具体的な内容を教えてもらえますでしょうか。

遠藤:入社から半年間をOJT期間とし、人事、トレーナー、マネージャーの三者体制で新卒社員をサポートしています。まず面談でその月の目標や行動計画を決め、翌月の面談で実施状況を確認。どの段階まで成長したか、今後さらに能力を引き上げるためには何をすべきかといったことを共有していきます。

━━ 毎月の目標や行動計画は、どのようにして決めているのでしょうか。

酒井:2022年4月に「新卒3年間の成長指標」というものを定めました。これは、新卒1年目、2年目、3年目の終了時にこうあってほしいという「求める人物像」をまとめたもので、たとえば「新卒1年目終了時に、リーダーシップにおいてこのようなことができる人」といったことが書かれています。この指標は、目標や行動計画を決める時の参考にしたり、成長度合いを確認する時の目安にしたりして活用してもらっています。

━━ 全社での共通認識をつくるということですね。

酒井:そうですね。たとえば学校を卒業したばかりの社員に漠然と「半年後にどうなっていたいか」と聞いてもなかなか答えられないかもしれませんが、1年目終了時の指標があれば、半年後をイメージしやすくなりますよね。この指標を全社で共有することにより、新卒社員が目標に向けて自走できるようになること、そして部門と人事で連携しながら支援しやすい環境にすることを目指しています。

ただし部門や職種によっては同じ経験ができないこともありますので、必ずこれを目指さなければならないと決めているわけではありません。どのように活用するかは、それぞれの部門に任せています。

「みんなで一緒に若手社員を育てていく」というスタンスが大切

━━ この施策を浸透させるために工夫されていることはありますか。

遠藤:ワークショップを実施し、目標設定の仕方や行動計画の立て方などを学んでもらっています。そこで新卒社員にどうなってもらいたいのかをトレーナーに考えてもらい、そのためにはどのように成長していくと良いのかといった計画書を作ってもらいます。これをOJTのスタート時に新卒社員、トレーナー、マネージャーですり合わせて実行していきます。

人事本部 人事戦略部 人材育成グループ 遠藤 敏生様

━━ すぐに現場で活用できるように、細かい部分までしっかり設計されていますね。

酒井:トレーナーに受け入れてもらえるように、並走のスタンスを大切にしています。

例えば、計画書のフォーマットや振り返り方法は参考情報として展開し、ご自身でノウハウをお持ちの方は、ご自身のやり方で進めることも了承しています。また、人事が経験豊富なトレーナーに知見やノウハウについて教えを乞うこともあります。

新卒社員の特性も多様化しており、全員に通用する育成の正攻法はないと思います。そのため、一方的に育成方針ややり方を押し付けるのではなく、トレーナー・新卒社員と人事で手を取り合い試行錯誤しながら育成をしていきたいと考えています。

━━ みんなで一緒にやっていこうというのは、素晴らしいコンセプトですね。各部門の皆様の反応はいかがですか。

酒井:トレーナーからは概ね好評で、「今までは行き当たりばったりで後輩と接していたけれど、成長につながるように意図的かつ計画的に会話ができるようになった」といった声をもらっています。

━━ 各部門で作られたOJT計画書は、トレーナー同士で共有されていると伺いました。これはどのような意図で行われているのでしょうか。

遠藤:新卒社員がいつどのようなことを行って、どのように成長したかという記録は重要なナレッジなので、それを会社全体で活用してもらいたいというのが目的です。また、現在OJTを実施しているトレーナーにとっては、他の新卒社員の進捗を知ることで刺激や安心感が生まれるというメリットもあります。

さらにパーソナライズ化された指標・仕組みにしていくことが次のステップ

━━ こうして話を伺い、改めてすばらしい施策だと感じました。1年ほどやってみて、推進者である人事の皆様はどのように感じていらっしゃいますか。また、見えてきた課題などがあれば教えてください。

酒井:人事としては、育成しやすい環境作りの一環として指標や計画書などを用意してきました。社員の協力もあり、以前よりも育成環境は整ってきましたが、ブラッシュアップできる点はまだ沢山あるため、今後も改善を重ねていきたいですね。

遠藤:社員の成長度合いはそれぞれなので、指標をもっと個人に合わせてカスタマイズできるようにするとより良くなるのではないかと考えています。今は「1年目の終了時にはこうあってほしい」という形の指標にしていますが、今後は年次の区切りに拘らず、各個人の成長に合わせて指標を設定するなどの改善をしていければと思っています。

━━ 若手社員の育成に課題を抱えていて、これから貴社のように力を入れていきたいと考えている企業に向けて、成功するためのアドバイスがあればぜひ教えてください。

酒井:OJTや成長指標の話しから少し逸れてしまいますが、育成では「与える」と「引き出す」をセットで行うことが重要と考えています。いくら知識や情報を付与しても、実践しないと身に付きません。それに気づかず与え続けた場合、効果が見られずお互い疲弊してしまいます。そのような齟齬がおきないように、研修実施後には参加者本人に研修の所感や気づき、実践する際に不安なことなどを聞くようにしています。少々時間を要しますが、各人と対話の機会を設けることで、本人の思考整理ができ、不安要素を取り除くことで実践角度があがります。

遠藤:会社として成長指標を作って育成していくことはとても大切ですが、どう成長していきたいかは人によって異なります。成長指標をベースにしながらも固執せず、「あなたはこういう強みを持っているからこのように活かしていこう」と、会社からの期待値と個人の強みのバランスをとりながら個々人の成長機会を提供していくことが大切だと思っています。